Overseas / Perspective

モスクワで知った。当たり前は場所が変わると当たり前ではなくなる

海外に出る価値は、景色が変わることだけではありません。自分の中で「普通」「安定」「豊か」と思っていた基準が崩れ、見え方そのものが変わることにあります。私にとって、その転機が1997年から1998年のモスクワ赴任でした。

1998年のロシアで使われていた1万ルーブル紙幣

この記事で分かること

  • 1997〜1998年のモスクワで、生活と経済の変化をどう体験したか
  • 「安定している」という思い込みが、なぜ判断を狭くするのか
  • 海外経験が、その後の投資・事業・人生観へどうつながったか

結論

人は世界を客観的に見ているつもりでも、実際には自分が暮らしている環境を基準に判断しています。水や電気が使えること、必要な物が店に並ぶこと、通貨の価値が大きく変わらないこと。日本では意識しなくてもよい前提が、場所や時代が変われば揺らぐことがあります。

モスクワで学んだのは、何かを恐れて動かないことではありません。「今ある安定は永遠ではない」と知ったうえで、依存先を減らし、複数の選択肢を持ち、自分で考え続けることです。これは現在の私が考える「人生を豊かにする」というテーマにもつながっています。

徳島からモスクワへ。希望して得た海外勤務

私は徳島で生まれ、工業高等学校を卒業した後、会社員として働き始めました。最初から国際的な仕事に必要な能力が十分にあったわけではありません。それでも海外へ行きたいという思いがあり、英語を学び、海外勤務を希望しました。

その過程で、TOEICの点数は245点から635点まで上がりました。数字だけを見れば小さな経歴の一項目かもしれません。しかし私にとって大事だったのは、最初からできたのではなく、必要だと思ったから学び、希望を伝え、実際に赴任の機会を得たことです。

1997年から1998年、家族を伴ってモスクワへ赴任しました。当時のロシアは、1991年のソ連崩壊後の大きな変化の途中にありました。日本でニュースとして知るのと、その社会の中で生活するのとでは、受け取る情報の重さがまったく違います。

言葉、気候、交通、住環境、店に並ぶ商品、仕事の進め方、人との距離感。生活のほぼすべてに、日本とは違う前提がありました。自分にとっての常識が、世界共通の常識ではない。その事実を、毎日の暮らしの中で理解していきました。

日本で普通だった生活は、世界では特別な条件だった

日本にいると、必要な物が店で買えること、公共交通が予定に近い形で動くこと、生活インフラが安定していることを、つい当然だと思います。しかしモスクワでは、物資不足、交通の制約、治安への不安など、日本とは異なる現実に触れました。

これは「海外は大変で、日本は安全」という単純な比較ではありません。環境が変われば、生活の優先順位も、人が工夫する方法も変わります。ある場所で不便に見えることが、別の場所では日常として受け入れられている。逆に、日本で便利だと思っていた仕組みが、外から見ると一つの方式にすぎないこともあります。

住む場所が変わると、ありがたいと感じる対象も変わりました。安心して眠れること。家族が無事でいること。必要な物が手に入ること。何でもない一日が続くこと。人生の豊かさを考える時、収入や所有物だけでは測れない基盤があると実感しました。

この経験があるから、私は現在も「普通の日常への感謝」を大切にしています。新しい挑戦や事業を続けられるのは、健康、家族、人とのつながり、生活基盤があってこそです。豊かさは、派手な成果だけでなく、それを支える日常を含めて考える必要があります。

通貨の単位が変わり、お金の「当たり前」も揺れた

1998年1月、ロシアではデノミネーションが実施されました。旧1,000ルーブルが新1ルーブルになる変更です。私が当時持っていた旧1万ルーブル紙幣も、数字の上では新10ルーブルに変わりました。

デノミは、それだけで資産価値が千分の一になるという意味ではありません。重要なのは、普段は固定されているように見える紙幣の表示や通貨制度も、社会の事情によって変更されるということです。お金は絶対的な物ではなく、国や制度への信頼の上で機能しています。

デノミ前に使われていたロシアの1万ルーブル紙幣
1998年のデノミ前に使われていた旧1万ルーブル紙幣。制度が変われば、お金の表示や扱いも変わります。

その後、ロシア経済危機を経験しました。通貨、物価、社会の空気が大きく動く時、昨日までの計画がそのまま通用するとは限りません。「会社員として働いていれば安心」「現金で持っていれば安全」「国の制度は変わらない」といった思い込みを、無条件には信じられなくなりました。

だからといって、すべてを疑って生活するわけではありません。私が持ち帰ったのは、安定を否定する姿勢ではなく、安定が崩れた時に別の選択肢を持てるようにする姿勢です。一つの勤務先、一つの収入、一つの資産、一つの国や制度だけに人生全体を預けない。この考えは、後の投資や事業の多角化につながりました。

海外・危険地域手当を「次の選択肢」に変えた

海外勤務では、海外手当や危険地域手当が支給されました。帰国後、そのお金は投資へ踏み出すための種銭になりました。結果として最初の株やFXは思うようにはいきませんでしたが、モスクワで得たものが、帰国後の新しい行動へつながったことは確かです。

ここで大切なのは、「海外へ行けばお金が貯まる」という話ではありません。環境が変わることで、新しい経験、収入、能力、人とのつながりが生まれ、それまでになかった選択肢が増えることです。私は海外勤務をきっかけに、会社から受け取る給与を使うだけでなく、お金をどう残し、どう働かせるかを考え始めました。

一方で、最初は高い利回りや近道を求めました。これは後の記事で詳しく書いている通り、資産を減らす経験にもつながります。モスクワで「制度や通貨は絶対ではない」と学び、帰国後の投資で「利回りが高いだけでは増えない」と学びました。二つの経験が組み合わさって、現在の判断基準ができています。

視野が広がるとは、答えを知ることではない

視野が広がるというと、世界の情報をたくさん知ることだと思われがちです。しかし私がモスクワで得たものは、知識の量より「自分の前提にも間違いがあるかもしれない」と考えられる感覚でした。

同じ数字を見ても、置かれた環境によって意味は変わります。月収の大きさだけで豊かさは決まりません。生活費、物価、治安、自由に使える時間、家族と過ごせる時間、将来の選択肢まで含める必要があります。不動産の利回りも同じです。表面の数字だけでは、修繕、空室、手間、出口は分かりません。

異なる前提を知ると、「どちらが正しいか」だけで考えなくなります。AかBかではなく、条件が変わればどの方法がよいかを比較する。これは海外生活だけでなく、不動産、民泊、AI活用、事業相談でも一貫して使っている考え方です。

モスクワで揺らいだ前提現在の判断基準
生活インフラや物資は安定している平常時だけでなく、変化した時に耐えられるかを見る
通貨や制度は大きく変わらない一つの資産や制度へ依存しすぎない
会社員であれば将来も安心できる自分で管理できる収入源と能力を育てる
自分の常識は相手にも通用する相手の環境と前提を確認してから判断する
豊かさは収入や所有物で測れる時間、健康、家族、安心、選択肢も含める

新しい環境へ出る時に意識したい5つのこと

1.分からないことを恥ずかしがらない

知らない環境では、分からないのが普通です。分かったふりをせず、現地の人や経験者へ聞き、自分でも確認する。その積み重ねが安全と理解につながります。

2.数字と現場の両方を見る

経済指標や為替だけでは生活実感は分かりません。一方、個人の印象だけでは全体像を誤ります。数字で大きな流れを見ながら、実際の店、仕事、暮らしの変化を見ることが重要です。

3.日本の方法をそのまま押しつけない

日本で効率的だった方法が、別の文化や制度で機能するとは限りません。相手のやり方には、その環境で成立してきた理由があります。まず背景を理解してから改善を考えます。

4.撤退条件と連絡手段を持つ

挑戦は勢いだけでは続きません。何が起きたら戻るか、誰へ連絡するか、必要な資金はいくらかを考えておく。出口を持つことは弱気ではなく、挑戦を継続するための準備です。

5.得た経験を次の行動へ変える

旅行や赴任を「良い思い出」で終わらせず、自分の仕事、家計、学び方、人との接し方へ反映する。体験を判断基準へ変えた時、初めて人生の選択肢が増えます。

だから私は、今も新しいものに触れ続ける

私は、新しいことへの挑戦を大事にしています。刺激だけが目的ではありません。自分の見え方が固定されるのを防ぎ、人生の選択肢を増やすためです。海外、不動産、民泊、事業、AI、飛行機。新しい世界へ入るたびに、知らなかった前提と出会いました。

もちろん、新しいことが常に正しいわけではありません。挑戦には失敗もあります。私自身、投資で資産を減らし、物件運営や事業でも計画通りにいかない経験をしました。それでも、失敗した時に「自分には無理だった」で終わらせず、何が足りなかったかを数字と言葉に変えるようにしています。

人生を豊かにする情報とは、誰にでも当てはまる正解ではないと思います。別の生き方、別の働き方、別の判断軸があると知り、自分に合う選択肢を増やすための材料です。モスクワで私の常識が一度リセットされた経験も、読む人が自分の前提を見直す小さなきっかけになればうれしいです。

海外へ行かなくても、自分の前提は揺らせる

価値観を広げるために、必ず海外へ移住する必要はありません。自分と異なる仕事をしている人に会う、知らない地域を歩く、普段読まない分野の本を読む、年齢や立場が違う人の話を聞く。それだけでも、自分が無意識に置いていた前提に気づけます。

大切なのは、珍しい体験を集めることではなく、体験後に何が変わったかを言葉にすることです。「驚いた」で終わらず、なぜ驚いたのか、自分は何を当然だと思っていたのか、今後の選択をどう変えるのかを考えます。

例えば、別の地域で小さな店が地域の人に支えられている姿を見れば、売上だけでなく関係性が事業を続ける力になると分かります。海外で家族同士の時間を大切にする暮らしに触れれば、働く時間と豊かさの関係を見直すかもしれません。最新のAIに触れれば、自分が守る仕事と機械へ任せる仕事を考えるきっかけになります。

私が新しい場所や技術に興味を持つのは、流行を追うためだけではありません。今の方法しかないと思い込まないためです。選択肢を知ったうえで、現在の暮らしを選び直せるなら、同じ場所に住み続けることも自分で選んだ豊かさになります。

まずは一か月に一度、普段の自分なら選ばない場所、人、テーマへ触れてみる。そして「何が自分の常識と違ったか」を三つ書き残す。小さな行動ですが、判断を柔らかくし、人生の可能性を広げる練習になります。

常識を変えるために、過去の自分を否定する必要はありません。その時の環境では合理的だった判断も、条件が変われば更新してよい。変化を受け入れられること自体が、人生の自由と豊かさを守る力になります。

こんな方に向いている考え方です

今の環境だけで判断することに少し窮屈さを感じている方に向いています。

  • 海外や新しい環境に出る意味を、自分の言葉で持ちたい
  • 価値観や視野を広げたいが、何から始めればよいか迷っている
  • 人生や事業の判断を、もう少し広い前提で考えたい

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