2026-09-12
引き返すのに30分、進むなら7分

夕方、車で帰る途中でした。下の道へ降りるつもりでいたのに、分岐を一つ読み違えて、気がついたら高速道路の入口の列に並んでいました。ETCの車線ではなく一般の車線に寄せて、窓を開けて係の方に聞いています。
「すいません、ちょっと間違えて高速の方に入っちゃったんですけど、そっちに戻るには」
自分の口から出たのが「戻るには」でした。間違えた地点まで引き返して、乗ってしまったことをなかったことにする。その前提で聞いていました。この時点で私が考えていたのは元の道のことだけで、目的地までのことは何も考えていません。
返ってきたのは、ここで折り返すことはできない、という話でした。次の出口まで走って、そこで一度降りて、反対側から戻ってきてもらうことになる。時間は三十分ほどかかるが、それでよろしいか。そういう順番で説明されました。
「結局、乗らないってことですね」
そう確認して、礼を言って進みました。
戻ることと、着くことは違いました
走りながら案内を見比べます。次の出口で降りて、そのまま下の道で帰った場合、もともと降りるはずだった道で帰るのと七分しか変わりませんでした。少し先でもう一度確かめても、差は十分。
並べてみると、はっきりしていました。間違いを取り消すのに三十分。間違えたまま目的地へ向かうのに七分。三十分のほうは、目的地に近づくためではなく、元の道に戻るためだけに払う時間です。移動の目的は家に着くことであって、正しい道を通ることではありません。それなのに私は、料金所で最初に戻り方を聞いていました。
結局、次の出口で降りて、下の道で帰りました。判断の材料は七分という数字ひとつです。感情のほうは最後まで「間違えた場所まで戻したい」と言っていましたが、それは目的とは関係のない話でした。
道を間違えたと気づいたときに最初に測るのは、どこで間違えたかではなく、いま自分がいる場所から目的地まで、どの道が一番早いか。次からこう決めます。
開業して間もない時期にも、同じ形の場面が来ます。出した見積もりの条件を間違えていたと後から気づく。作り始めたページの構成が、そもそも違っていたと分かる。人に頼んだあとで、頼み方を誤ったと気づく。こういうとき、最初からやり直したくなります。ただ、やり直しは戻る作業であって、進む作業ではありません。相手が待っているのは正しい手順ではなく、届くものです。
気づいた時点で、紙に二行だけ書いてみてください。
「元に戻すのにかかる時間」。「いまの状態から仕上げるのにかかる時間」。
この二つを並べて数字を入れると、たいてい戻るほうが高くつきます。人に聞くときも同じで、戻すとどれくらいかかりますか、このまま進むとどれくらいですか、と両方を一度に聞けば、答えが並んで返ってきます。片方だけ聞くと、片方しか比べられません。
いま手元にあるやり直しは、目的地へ近づく作業でしょうか。それとも、間違いをなかったことにする作業でしょうか。
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