値引き / 断り方 / 価格の決め方
値引きを求められたときの断り方|先に決めておく3つの線
「もう少し安くなりませんか」と言われてから断る理由を探すと、探している時間そのものが、相手には「まだ下がる」という合図に見えます。必要なのは断り文句ではなく、見積もりを出す前に決めておく線です。私が実際の商談で使っている3つの線を、うまくいった例と外した例の両方から整理しました。
この記事で分かること
- 値引きを求められる前に決めておく3つの線
- 値引きで埋まる不足と、いくら下げても埋まらない不足の見分け方
- 断ったあとに相手が元の条件で戻ってくることがある理由
- 自分が値引きを求める側に回ったときの伝え方
正直な前提
断れないのは、気が弱いからではありません
値引きを断れないとき、多くの場合は性格の問題ではなく、断る根拠を持っていないだけです。いくらまでなら受けるのか、この不足は値段で埋まるのか、その値引きで何を買うのか。この3つが決まっていないと、相手の一言で毎回ゼロから考え直すことになります。考え直している時間に、相手は「もう少し粘れば下がる」と受け取ります。
結論:断る言葉より先に、3つの線を決める
値引きの相談に強い人は、交渉がうまいわけではありません。返事が速いだけです。速いのは、次の3つを見積もりを出す前に決めているからです。
- 線1:これ以下では受けない金額(下限)
- 線2:値引きで埋まる不足か、埋まらない不足か
- 線3:その値引きで何を買うのか
3つとも、相手から連絡が来る前に決められます。決めてあれば、返事は「すみません、そこからは下げられないんです」の一言で足ります。理由は、線を引いたときにもう考え終わっているからです。
線1:これ以下では受けない金額を、出す前に決める
貸している部屋に入居の申し込みが入ったとき、管理を任せている担当の方から電話がありました。入居希望の方から、家賃を七万円から六万八千円にしてもらえないかという問い合わせが来ている、という内容です。
私はその場で、そこからは下げられない、と答えました。考える時間は取っていません。電話は一分ほどで終わりました。
数字だけを並べれば、下げたほうが得に見える場面です。二千円を十二か月で二万四千円。断って空室が一か月延びれば、それだけで七万円が入ってきません。三年住んでもらっても差は七万二千円ですから、空室一か月ぶんと大きくは変わらない計算になります。私は普段、こういう比べ方をしてから決めます。
今回それをしなかったのは、その部屋に手を入れた分があり、募集に出す前から「ここからは下げない」と決めてあったからです。その場で計算しなかったというより、計算はとっくに終わっていた、というほうが近いです。
断った四時間後に、元の値段で決まりました
同じ日の夕方、十六時二十五分に折り返しがありました。仲介に入っている業者さんが希望者に確認したところ、元の七万円で進めて構わない、という返事だったそうです。値下げはゼロ、入居日はこちらの希望どおり。断ってから四時間十五分でした。
ここから分かるのは、値下げの要望が、必ずしも「それでなければ決まらない条件」ではないということです。聞くだけ聞いてみた、という場合があります。少なくともこのときは、こちらが動かなかったら、向こうが元の条件で動きました。
ただし、そうなったのは私が交渉に強いからではありません。即答できたからです。ここで「少し考えさせてください」と持ち帰っていたら、間には担当の方がいて、その先に仲介の業者さんがいます。返事が一日遅れるあいだに、条件は動かせる前提の話に変わっていたはずです。
見積もりを送る前に、自分のメモへ一行だけ書いておきます。「この仕事は◯◯円まで。それより下では受けない」。書いてあれば、値引きを頼まれたときの返事は一言で済みます。
線2:値引きで埋まる不足と、埋まらない不足を分ける
買って貸すつもりで、築年数の古い戸建てを見ていました。三部屋、売値は五百万円。開いてすぐ引っかかったのは駐車場が付いていないことでしたが、その時点では断る理由にするかまで決めていませんでした。
気にしていたのは家賃のほうです。私の想定は六万八千円から出して、落ち着くのは六万五千円あたり。ところが同じあたりの募集を見ると、五万八千円から六万三千円に集まっていました。しかもこの物件はプロパンガスです。
コインランドリーを運営していて、ほとんどがプロパン、一店だけ都市ガスです。毎月の支払いを見ているので、比べるつもりがなくても差は目に入ります。一般的な家庭で月に三千円から五千円違うとすれば、借りる側から見れば家賃がその分高いのと同じです。それを知っていたら、同じ家賃でプロパンの家は選びません。
そうなると想定の家賃では決まらず、六万三千円、場合によっては六万まで下げることになります。五百万円で買って百万円以上かけて直したら、その家賃では合わない。ここまでは電話をしながら計算できました。
決め手はガス代ではなく、駐車場でした
電話の最後に私が言ったのは、やはり駐車場が欲しいので見送ります、でした。さんざん話したガス代ではありません。
ガス代の差は、家賃を下げれば埋められます。埋めたうえで利回りが合うかどうかは計算の話で、答えは必ず出ます。駐車場は違います。無いものは後から作れません。住宅街なので近くを借りる当てもない。いくら家賃を下げても、車が要る人はそもそも候補に入れません。
つまり私は、値段で埋められる条件と、値段では埋められない条件を、同じ土俵に乗せて悩んでいたわけです。先に分けておけば、迷う時間は半分で済みます。
開業して間もない時期にも、同じ形の不足が来ます。納期が他社より三日遅い、事務所がない、実績がまだ一件もない。こういうとき、まず値段を下げて埋めようとします。納期の三日は、相手にとっての損を金額に直せるので値引きで埋まることがあります。実績が一件もないことは、いくら引いても不安が消えない相手には届きません。
判定のしかたは一つです。「それが無いせいで、相手は毎月いくら余計に払うか」を金額に直し、その金額を自分の値段から引いてみます。引いた値段なら選んでもらえるなら、値引きで埋まる不足です。引いても選ばれないなら、値段では埋まりません。
線3:その値引きで、何を買うのかを決める
運用を任せている宿泊施設の月次報告でのことです。売上は計画に対して百三十三パーセント、稼働は二十八日。前の年の同じ月は単価を高く置いて七日しか埋まらなかったのが、単価を半分近くまで落として二十九日埋まっていました。数字だけなら良い報告です。
ずれていたのは予約の内訳でした。以前は自社サイト経由が五割を超えていたのに、今はほぼ一件。今後三か月に至ってはゼロ件で、代わりに海外の予約サイトからの流入が増えています。予約サイトを通れば手数料がかかりますから、売上は計画を超えているのに、手元に入る額はその分削られていました。
私が最初に口にしたのは、自社サイトの予約システムは毎月維持費がかかるので解約したほうがいいのではないか、でした。数字だけを見せられた直後の判断としては、そうなります。
同じ一万円が、安売りにも広告費にもなります
聞いてみると事情がありました。予約サイトに寄せているのは意図してのことで、単価を下げているのも、まず口コミを集めるためだという説明です。口コミが積み上がれば、そのあとで単価を戻せる。順番として先に安く出している、と。
それを聞いて、報告の受け取り方が変わりました。「口コミを集めるための広告費として一万円安くしています」と「ただ一万円安くしています」は、金額が同じでも意味が正反対です。
ただし、そこで終わりではありません。実際に口コミがどれだけ増えたかを聞くと、増えてはいるという答えでしたが、良い内容なのか悪い内容が混ざっているのかは、その場では分かりませんでした。安く出した見返りが良い評価なら投資ですが、悪い評価を集めただけなら、下げた分がまるごと損です。同じ施策でも、結果を確かめないと投資か損か決まりません。
だから、値下げの相談を受けたら、金額の大小ではなく、その値下げで何を買うのかを先に聞くことにしました。買うものが決まっていない値下げは、値下げではなく、ただ売上が減る話として扱います。
場面別の返し方
3つの線を決めてあれば、返事はその場で選ぶだけになります。
「予算がない」と言われたときの確かめ方は、「予算がない」は、すぐ値下げする合図ではないで詳しく書いています。
自分が値引きを求める側に回ったとき
逆の立場のことも書いておきます。ある協力会社から提携の相談を受けたときのことです。
私は紹介する側なので、まず費用を具体的に聞きました。「広さによって変わります」だけでは紹介できるか判断できないので、よくある広さならどのくらいになるかを聞いています。返ってきた金額は、想定していた中でも高いほうでした。
ただ、高いだけの理由はありました。現場任せにせず、全国で同じ項目を確認できる仕組みを整えているという説明で、筋が通っています。品質の考え方には納得できました。
それでも、紹介する側としては別の問題が残ります。実際に依頼する人は、作業する人数と時間から費用を考えます。その感覚と金額に差があれば、品質を説明する前に価格で止まります。
だから電話のなかで、品質の考え方には納得できるが、この価格では紹介しても決まりにくいと思う、と率直に伝えました。安くしてほしいと迫ったわけではありません。良いと思った点と、難しい点を混ぜずに分けて伝えただけです。その場で提携を決めることも、断ることもしませんでした。
値引きを求めるときも、断るときも、やっていることは同じです。良い点と難しい点を分け、難しい点がどこにあるのかを具体的に言う。それだけで、相手は条件を変えるかどうかを自分で判断できます。
今日からやること
- 出している見積もりの下限を書く。「この仕事は◯◯円まで。それより下では受けない」。金額を決めるときに、下げない金額も一緒に決めます。この二つで一組です。
- 自分に足りない条件を3つ書き出し、値段で埋まるか判定する。「それが無いせいで相手が毎月いくら余計に払うか」を金額に直し、自分の値段から引いてみます。引いても選ばれないものは、値引きでは解決しません。
- 値引きを受けるときは、何を買うのかを書いてから受ける。実績、口コミ、紹介、継続。買うものが書けない値引きは、ただ売上が減るだけです。受けたあとは、買えたかどうかを必ず確かめます。
三つとも、相手から連絡が来る前にできます。そして一度書いておけば、次に同じ相談が来たときの返事は一言で済みます。
まとめ
値引きを断れないのは、断る言葉を知らないからではなく、断る根拠を先に作っていないからです。下限を決め、値段で埋まる不足と埋まらない不足を分け、その値引きで何を買うのかを決めておく。この3つがあれば、返事は速くなります。
そして返事が速いこと自体が、相手にとっては「この人の価格は動かない」という情報になります。実際、二千円の値下げを一分で断ったとき、四時間後に元の値段で決まりました。交渉に勝ったのではなく、迷う時間を渡さなかっただけです。
いま出している見積もりのうち、下げない額まで決めてあるものは何件ありますか。
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