説明 / 提案 / 選ばせ方
選択肢を全部並べると、相手の宿題になる
必要なボタンは全部そろっているのに、どれを押せばよいか分からない。そういう画面を見たことがあります。選択肢が足りないのではなく、順番が付いていないだけでした。作る側は漏れがないよう全部を並べたくなりますが、読む側には判断の仕事が増えます。最初に勧める一つの決め方と、不安が出る順の説明を、実際の記録から整理しました。
この記事で分かること
- 選択肢が足りているのに選べなくなる理由
- 最初に勧める一つを決めるときの基準
- 相手の不安が出る順に説明を並べ替える方法
- 説明を足したくなったときに、一度分けること
- 説明の前に聞く一言と、削れる部分の見分け方
正直な前提
必要なボタンは全部あるのに、どれを押せばよいか分かりませんでした
ある日、必要なボタンが全部そろっているのに、どれを押せばよいか分からない画面を見ました。選択肢が足りないのではありません。足りているのに、選べない。
作る側は、漏れがないよう全部を並べたくなります。私もそうでした。抜けがあると不親切に見えるからです。
しかし利用する人にとっては、違いを読み、今の自分に合うものを判断する仕事が増えます。親切のつもりで、こちらの整理を相手の宿題にしていました。
結論:並べるのではなく、順番を付ける
選択肢を減らせない場面はあります。減らさなくて構いません。やることは3つです。
- 多くの人が最初に選ぶものを、先に置く
- 例外だけ、別に示す
- 何を選んでも同じなら、そもそも選ばせない
順番を付けることは、こちらが責任を持って最初の一歩を勧めることでもあります。全部を見せて「選んでください」で終えるより、そのほうが親切だと思っています。
1:最初に勧める一つを決める
「人によって違うので、一概には言えません」は、たいてい本当です。それでも、いちばん多い人がどれを選ぶかは、こちらが知っています。
知っている側が黙って全部並べるのは、判断を渡しているようで、実際は面倒を渡しています。決め方はこうです。
- 迷っている人の8割が選ぶものを先頭に置き、「まずはこれです」と書く
- 残りは「◯◯の場合はこちら」と、条件を先に書いてから並べる
- 差がない選択肢は統合する。選ばせるコストのほうが高い
あわせて、受付時間や、送った内容がどこへ届くかも書きます。送信後にいつ返事が来るのか分からなければ、届いたか不安になり、別の窓口から同じ連絡が来ます。内部の確認が増える原因を、入口で自分から作っていることになります。
この構造は、画面に限りません。置き場所が決まらない機械について考えたときも同じでした。候補を増やすより、誰が使い、誰が管理するかを決めれば場所は絞れます。物の場所も、画面の選択肢も、役割が決まらないから並んだままになります。
2:説明は、不安が出る順に並べる
大きな施設の中を案内してもらったことがあります。時間も順路も決まっていて、私は完全に案内される側でした。どこまで入れるのか、何を撮ってよいのか、いつ終わるのかも知りません。
始まる前の説明が丁寧でした。順番に理由がありました。
参加者の不安が出る順に並んでいました。私は説明するとき、自分が力を入れて考えた部分から話しやすい。相手も全体像を持っているつもりで、途中から始めてしまいます。そして相手が黙って聞いていると、伝わったと勘違いします。
見積書でも、サービスの案内でも、この順番は使えます。金額と条件の細部から入らず、全体と所要期間、こちらがやる範囲とやらない範囲、細かい条件、困りそうなこと、次に何が起きるかの順にします。内容を増やす前に、順番を変えるだけで伝わり方が変わります。
3:制限には、理由を先に置く
同じ案内で、こう説明されました。写真を撮るために立ち止まると、後ろの人の通行を妨げるので、歩きながら撮ってほしい、と。
撮影そのものは禁じず、必要な部分だけを制限しています。理由が先にあるので、命令されたのではなく、自分で納得して従えました。
飲み物も、原則は持ち込めないが、蓋のできるものは認められていました。そのうえで、暑いので水分を取るようにと言われました。制限を伝えながら、参加者への気遣いも一緒に置かれていました。
仕事の条件提示も同じです。「◯◯はお受けできません」だけを並べると、細かい相手に見えます。「◯◯だと△△になってしまうので、この部分だけお願いしています」と書けば、同じ制限でも相手は納得して動けます。
4:説明を足すほど、相手が考える時間を奪う
数字の食い違いや電話での確認など、相手と認識を揃える場面が続いた日がありました。私は早く話を進めようとして、相手が言葉を探している間にも説明を足していました。
その場では会話が止まらず、効率よく進んだように見えます。しかし、相手が自分の言葉で理解を確かめる前に、こちらの答えを置いてしまう。あとから同じ話をもう一度することになり、急いだ時間が後ろへ回っていただけでした。
説明を足す理由を振り返ると、相手を助けたいだけではありませんでした。返事のない時間に自分が耐えられず、何か言わなければと思っていたのです。
数字が合わないときも、どちらが正しいかを早く決めるより、どこから離れ始めたのかを並べる必要があります。任せる仕事も、金額を先に決めるより、どこまでを任せるかを言葉にしたほうがよい。早く答えを置くと、決まったように見えて、肝心の前提が残ります。
認識を揃える方法には、こちらが先に定義して押し込む方法と、相手が自分の言葉で話すまで空けておく方法があります。前者は速く、後者は時間がかかります。急いでいる場面では、私はまだ待ちきれません。
全部を相手へ委ねるわけではありません。確認する場所は示し、必要な材料は渡す。そのうえで、相手がどう理解したかを言葉にする余白を残します。次に説明を足したくなったら、それが相手のためなのか、自分が沈黙を埋めたいだけなのかを一度分ける。数秒待てば、その場で相手の考えを聞けます。待てずに答えれば、後日もう一度同じ時間を使います。
5:入口は、相手が探す言葉から始める
制度や手続きを探す人は、正式名称を知らないから検索していることが多いものです。書く側は正確な名前を知っているので、その言葉から書き始めます。
しかし探す側は、名前の途中にある特徴的な単語しか覚えていないかもしれません。正確な言葉は必要ですが、入口は相手の言葉から始めます。
名前を決めるときも同じです。完璧な短い名称を探し続けるより、実際に呼ばれ、探される姿を見て育てたほうが早い。新しいものを増やすより、既にあるものの順番を直す。選択肢の話と、同じことをしています。
6:「一度言った」は、伝わった証明ではありません
案内の途中から加わった人がいました。案内役は、同じ説明を最初から繰り返しました。省略もしませんでした。
「一度言った」は、伝える側の記録であって、相手に伝わった証明ではありません。
私はこれを、こちらの手間の話として考えていました。二度言うのは非効率だ、と。けれど案内される側に立つと、途中から入った人にとっては、その繰り返しが最初の一回です。省略されていたら、そこから先はずっと分からないまま歩くことになります。
案内される側に立ったことで、分からない人が最初に欲しいものを体で理解できました。説明は、全体、境界、細部、気遣い、予告の順にする。そして、途中から来た人には最初から話す。
7:説明を始める前に、「今どこで止まっていますか」と聞く
順番の付け方には、もう一段あります。相手によって、必要な順番が違うという話です。
一日のうちに、自分の仕事を知らない相手へ説明する場面が三度続いた日がありました。最初の相手には、専門的な言葉を避け、任せてもらった後に相手の手元から何がなくなるのかを説明しました。
二度目も同じ順番で話し始めましたが、相手が知りたいのは、任せた後ではなく、始めるまでの手順でした。私は仕上がりを話したい。相手は入口を聞きたい。うなずいていても、疑問を抱えたまま聞かせていたことになります。
三度目は、先に相手が今どこで止まっているのかを聞きました。そこから話し始めると、用意していた説明のかなりの部分を使わずに済みました。不要なのではなく、その相手にはまだ早い部分だったのです。
一日の終わりには、説明が最初より短くなっていました。削れたのは、これまで何をしてきたか、どんな考えで仕事をしているかという、自分が言って安心したい部分でした。
反対に、何度話しても残ったことがあります。任せた後に相手に何が残るのか。うまくいかなかったときに、こちらがどう動くのか。この二つを省くと、相手の表情が曇りました。
一度の説明では、伝わったかどうかしか分かりません。同じ話を相手を変えて繰り返すと、余分な言葉と芯が分かれてきます。だから、説明を始める前に一つ聞きます。「今、どこで止まっていますか」。こちらの順番は、その後でかまいません。
今日からやること
- 選択肢が3つ以上並んでいる画面や資料を開く。「まずはこれです」と先頭に書けるものを一つ決めます。
- 残りの選択肢に、条件を先に書く。「◯◯の場合はこちら」の形にすると、読む人が自分に関係するかをすぐ判断できます。
- 案内文の順番を、全体・境界・細部・気遣い・予告に並べ替える。内容は足さず、順番だけ変えます。
- 「できません」と書いてある行に、理由を一言足す。同じ制限でも、相手は納得して動けます。
- 返事の目安を書く。いつ、どこへ届き、いつ返すか。これが無いと、同じ連絡が別の窓口から来ます。
- 説明の前に「今どこで止まっていますか」と聞く。用意した説明の三分の一は、その相手にはまだ早い部分です。
まとめ
選択肢を全部並べるのは、漏れをなくす作業としては正しいのですが、相手から見ると宿題が増えただけです。知っている側が順番を付けないと、知らない側が調べることになります。
最初の一つを勧める。理由を先に置く。不安が出る順に説明する。そして、相手が自分の言葉を出すまで数秒待つ。どれも、増やす作業ではありません。
いま相手に渡している選択肢のうち、「まずはこれです」と言えるものは決まっていますか。
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